(本レシピのポイント(作成者:ちろちろ))
✔ 法案作成に何度も携わってきた役人目線で、同性婚の法制化に必要なものは何か考えます。
✔ 1.はじめに
2.法案提出のふたつのルート
3.近道はどっち?
4.おわりに:一番大切なこと
の4章に分かれています。
1.はじめに
3月17日。その日歴史は動いた。
同性婚が認められないことは「違憲」であるとする判決が、日本史上初めて誕生した。
これで私ときゃんきゃんが結婚できる…わけではない。
私たちが結婚するには、【国会で同性婚を認める法律を制定すること】が必要である。 これは、ものすごく大変なことである。法律は、全国民に影響する、非常に重いルールだ。人を殺したら死刑になるのは「刑法」という法律があるからだし、必要なときに生活保護が受けられるのは「生活保護法」という法律があるからだ。
ゆえに、ひとつの法律が成立するまでには、たくさんの検討と議論が必要だ。 たとえば、私が入省してはじめて携わった法案の場合は、
ー6年間かけて検討して、
ー3年間かけて検討会での議論を行い、
ー1年間かけて具体的な法律の内容を決めて、
ー与党議員に何度も説明を重ね、その了承を得て法律案を国会に提出し、
ー沢山の議論と、何度もの廃案の危機を経て、なんとか成立した。
じゃ、同性婚の法制化まで最低6年は待たなきゃいけないの?
と思うかもしれないが、そんなことはない。ものすごく時間がかかる法案もあれば、スピーディに成立する法案もある。というわけで、今回の記事では、同性婚を認める法律の早期成立に向けて、どういう方策が考えられるのか、実際にいくつかの法案を作ってきた役人の目線で考えてみたい。
2.法案提出のふたつのルート
まず、法案を国会に提出するためには、ふたつのルートがある。
- ①内閣(政府)から法案を提出する「内閣提出法案(閣法)」
- ②国会議員のグループが法案を提出する「議員立法(議法)」
①のルートの場合、我々役人が法案を作って、与党の議員の了承を得てから国会に提出する。
このルートのメリットは「法案が成立しやすい」ことである。内閣提出法案(閣法)は、政権与党が行いたい重要政策の結晶であり、成立すればするほど、与党の「手柄」となる。だから、閣法は最優先で国会で審議されるし、(多数派である)与党が支持しているので、成立可能性も高い。
一方でデメリットもある。「多様な意見を反映しにくい」のだ。我々役人が検討や案文を作るのでどうしても「保守的・前例踏襲」になるし、政権与党の政策にそぐわないものは、閣法にはならない。今回の同性婚の話で言えば、残念ながら多くの役人は「LGBTってなんぞ?今でもコロナでドタバタなのに、法改正にでもなったらたまらんな…」状態だと思うし、政権与党のスタンスは非常に後ろ向きなので、仮に法案提出までこぎつけられても、内容はかなり「慎重」なものになると思う(「理解増進法」のような理念的なものに留まるだろう。「理解」って言葉、めっちゃ上目線でめっちゃ嫌いなんですけどね)。
②のルートの場合、有志の議員グループで法案をとりまとめて、国会に提出する。
このルートのメリットは、「新しいアイデアや多様な価値観を反映できる可能性が高まる」ことだ。たとえば、「過労死」については、明確な定義がないままだったが、超党派の議員立法で法制化された。尾辻かな子さんや石川大我さんなどの当事者として語れる議員さんをはじめ、同性婚に理解を示す議員さん(下記リンク参照、71人もいらっしゃるのだ!)が党を超えて集まれるのは大きい。役所を通さないので、前例や慣行にとらわれず、様々な方からヒアリングできる可能性も高い。
デメリットは、「法案が成立しにくい」ことだ。内閣提出法案(閣法)の成立率が約9割であるのに対して、議員立法(議法)の成立率はわずか2割。先ほど述べたとおり、閣法は成立すればするほど、与党の手柄になる。だから、国会での法案審議にあたっては、どの法案をいつ審議するかという日程を決める段階から、閣法を成立させたい与党と、させたくない野党が熾烈な戦いを繰り広げる。そんな中で、閣法に比べて与党の優先順位が低い議法は、そもそも審議すらされないことが多いのだ(婚姻平等法案も、おそらく…)。
以上を表にまとめると以下のようになる。
3.近道はどっち?
では、どちらのルートがより早く同性婚の法制化を実現できそうか。私は、②(議法)が近道だと思う。
①(閣法)のルートは、どうしても、既存のしがらみから逃れるのが難しい。現状の制度で満足していたり利益を受けたりしている人たちとの調整の中で、少しずつ、法案の大事な部分がそぎ落とされてしまう。
②は、成立しにくいデメリットがあるが、既存の枠組みに囚われず、多様な意見に応えられる。より多くの当事者にヒアリングして、一緒に法案を作りあげていけるだろうし、場合によってはフランスの「パックス」(下記リンク参照)のように、結婚とは別のパートナーシップ制度を作ることだって、より迅速に実現できるだろう(夫婦別姓に賛成なこともあり、「パックス」みたいな制度ができてくれたら嬉しいと思う)。
4.おわりに:一番大事なこと
とはいえ。いままで述べたのはあくまで、国会や行政の世界での話だ。国会議員(国民の代表)も、役人(全体の奉仕者)も、一番大事にしているのは、「いま、国民が何を望んでいるのか」ということ。法案の成否を決めるのは、主権者たる国民である。
同性婚の法制化について、(SNSや日常生活の中で)声をあげること。
住んでいる街の国会議員や政治家に、投票や意見送付を通じて考えを届けること。
苦しんでいる誰かのために、一歩踏み出してみること。
「結婚」という制度について、一段深く考えてみること。
同性婚に関する特設サイト(例えばMarriage For JapanやEMA Japan)の情報に目を通してみること。
そうしたひとつひとつの小さな行動や議論の積み重ねが、大きなうねりとなって、この国の未来を決める。
賛成か、反対か、それはこの記事を読んでいるあなたに任せる。でも、札幌地裁のあの判決は、波となってあなたの心にも打ち寄せていると思う。その波は、あなたの心にどんな模様をつくるのか。まずはそれを考えることから、いっしょに、未来の建設、はじめませんか。
(3月27日追記)Facebook上にこの記事を共有していたところ、「民法と戸籍法には’夫’と’妻’が同性であることを禁止する条文はなく、解釈通達や主意書での疑義回答(閣議決定)でここでいう夫と妻は同性も含むと示せれば、法改正は不要ではないか」とのコメントをいただいた。かなりアクロバティックな案だが、確かに政治家の決断次第で不可能ではないため、ここに追記しておく。
コメント / COMMENT
[…] ✔ 前回の記事に引き続き、札幌地裁訴訟を役人目線で考えます。 […]
[…] きゃんきゃんです。最近、ヘビーな内容の記事が続いたので、ここでひとつ、ちろちろとのほっこりデートレポを書きたいと思います☆(ジェンダー関係の気づきにも触れるので、このブログで書いておこうと思いました。) […]
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