男性同士の恋愛作品を読む際の安心ポイント①~⑤

レシピ / RECIPE

本レシピのポイント(作成者:ちろちろ)

✔ 同人誌作成経験者の友人から、「どういう表現なら当事者の人にも安心して読んでもらえるのか、今一歩わからない」と相談を受けた

✔ というわけで、私が男性同士の恋愛を描く作品を読むとき、ここが押さえてあると安心!という10のポイントを紹介したい(今回は①~⑤。⑥~⑩は次の記事で紹介する)

以前、男性同士の恋愛を描いた同人誌に関する記事をアップしたところ、読んだ友人(同人誌作成経験あり)から、「いろいろ考えて描いてるけど、正直、どういう表現なら当事者の人にも安心して読んでもらえるのか、今一歩わからない」と相談を受けた。

というわけで、今回の記事では、パンセクシャル(性別にとらわれず人を好きになる人)の私が男性同士の恋愛を描く作品を読むとき、ここが押さえてあると安心!という10のポイントを紹介したい(長くなるので、今回の記事では前半、①~⑤をご紹介する)。

勿論、江戸時代が舞台とか、保守的な価値観のキャラであるとか、個々の作品によって事情があると思うし、絶対にこれらを守ってほしい!というつもりは毛頭ない。

ただ、以下のポイントについて、意識した記載ぶりがなされていたり、差別的表現に対して批判的な見解が明示されていたりすると、同性の恋人を持つひとりの読者としては、とても嬉しい。

私の友人と同様のお悩みを持つ方がいらっしゃれば、参考にしていただければ幸いである。

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安心ポイント①:男性同士の恋愛が「異常」とされていないこと

たとえば、よくある展開がこちら。

【安心できない例】
「俺はゲイじゃない。」
「ほらな、やっぱり。お前みたいな立派な男は、ちゃんとした女と付き合うべきだ」
「違う!お前が男とか関係ない!お前だから、好きになったんだ」
Aはまくし立てた。Bがはっと息をのむ。

「男と付き合う男=異常」という大前提のもと、「男とか関係ない、お前だから好きになった」という「言い訳」を挟まないと、男性同士の恋愛が成立しなくなっている(これが異性同士だったら、「性別とか関係ない、お前だから好きになったんだ」とは言わないはずだ)。同性愛に対する根強い差別や偏見を強化してしまう表現なので、こういうのが出てくると、ゲンナリする。

「禁断の恋愛」とか「性別を超えた愛」といった表現も、同様の理由から辛い(性別を”超えて”いるのはどう考えても異性愛の方だと思う)。

人が人を好きになるということを、てらいなく、自然に描いてくれるような作品が読みたい。

安心ポイント②:不適切な/間違った用語の使い方をしていないこと

【安心できない例】
「お前らホモだったのか。まあ、ソッチの人でも俺は気にしないけどな…最近は珍しくもないし。どんな性的嗜好を持とうが自由だ」
Cはそう言って、AとBに笑いかけた。

以上の文章には3つ問題点がある
①「ホモ」「ソッチの人」といった差別的表現を用いていること
②誰を好きになるか(セクシャリティ)は「性的指向」という表現が正しいのに、「性的嗜好」(性に関する趣味・こだわり)という誤った表現を用いていること
③「最近は珍しくもない」とサラッと上から目線のジャッジを行っていること

このあとCが「差別主義者」として断罪される展開ならともかく、なんの説明もないと、差別の温床になってしまいかねないし、そもそも読んでいる私自身が(実際にそういう言葉を日々かけられているので…)精神的ダメージを負う。

上記の文章の場合、「お前ら付き合ってるのか、おめでとう」で終わらせていいと思うし、性的指向などの用語を用いる場合は、意味を調べてから使ってもらえると、びくびくしながら読まずに済む。厚労省のnoteやガイドライン(https://www.mhlw.go.jp/content/000808159.pdf)でも簡単な用語解説を行っているので、参考にしてほしい。

あと、男性同士の恋愛作品で、「ゲイ」や「パンセクシャル」など、登場人物が「男性を好きになる(可能性のある)男性」であることを明示してくれる作品がもっと増えてほしい。よく使われる「BL(ボーイズラブ)」は、別に少年同士の恋愛ではないので、違和感がある。

安心ポイント③:不適切な/間違った制度の理解をしていないこと

【安心できない例】
「日本では結婚はできないが、パートナーシップ制度は使える。」
「これで永遠に一緒にいられるな!」
AとBは顔を見合わせて微笑んだ。

永遠に一緒にはいられないだろう。パートナーシップには法的な効力がなく、結婚の足元にも及ばない不安定極まりない制度なので。似たようなものとして、二人が特別養子縁組をするような展開があったりするが、「今の日本ではそれは認められていないんだよね…」と遠い目になってしまう。

差別や偏見が一切存在しない理想の世界を描くか、不十分で脆いことを理解したうえで現実世界の制度を正しく説明するか、そのどちらかであると、当事者としては心穏やかでいられる。

安心ポイント④:強姦、合意のない性的描写、近親相姦、ペドフィリア(小児性愛)、死姦について、否定的に描かれていること

上記に書き連ねた行為は全て紛れもない犯罪なのだが、男性同士の恋愛作品だと、結構よくあるので、特筆しておく。pixivなどで小説や漫画を探していると、時折、なんのゾーニングや注意書きもなしに、こうした描写が(しかも肯定的に)出てくるのは、大きな問題だと思っている。

ただでさえ、「同性愛はペドフィリアなどと同じく、許されざる犯罪である」という主張が一部でまかり通っているこの世界でそんなことをされるのは、風評被害とかそういうレベルではない。

こうした描写がない(あるいは、存在する場合、きちんと注意書きや批判的考察が行われている)だけで、その作品に対する安心度はぐんと跳ね上がる。もっとも、これは別に当事者だからとか、男性同士の恋愛だからということではなく、全ての創作物に共通することだと思うが…。

安心ポイント⑤:ゾーニング(区分け)の方法が適切であること

【安心できない例】
※同性同士の恋愛表現が含まれます。苦手な方は回れ右ください
#腐向け #腐注意

このようなゾーニングは結構見かけるが、不思議なことに、「異性同士の恋愛表現が含まれます。苦手な方は回れ右ください」とは一度たりとも見たことがない。もちろん、性的描写が含まれる場合、「R18」などの年齢によるゾーニングは必須だと思うが、なぜ同性同士の恋愛がおぞましいもののようにゾーニングされないといけないのか

「腐」という表現自体(自虐から生まれた伝統ある言葉で、広く流通していることは承知だが)「同性同士の恋愛(を妄想する人間)は異常」という発想から成り立っているので、こういうゾーニングがなされていると、作品を読む前から黄色信号が灯る。

「〇〇(キャラ名)と△△(キャラ名)の恋愛要素が含まれます」とか、ほかに言い方はいくらでもあると思うし、そういった言い方をしてくれている作品があると、キャプションを見た時点で、安心して読み進めることができる。

(⑥~⑩に続く)

コメント / COMMENT

  1. カイリ より:

    初めてコメント差し上げます。カイリと申します。
    こちらの記事を拝見して、フィクションであっても当事者の方々に寄り添い、現実の社会課題を解決していこうとする姿勢が重要だと改めて感じました。
    さて、「ポイント4」の見出しについて一点質問がございます。
    「近親相姦」について言及なさっていましたが、当事者全員が成人していて、きちんと同意がとれている場合(力の差が生じやすい関係の場合は、立場が弱い人物に配慮する描写もある)も含みますか?
    「近親相姦」という言葉では、合意の有無を問わず一緒くたにされがちですので、そちらでの定義をご確認したいと思っております。

    • Candice / Chihiro より:

      コメントありがとうございます!反応が遅れて申し訳ありません。近親相姦という言葉は、ここではご指摘の「当事者全員が成人していて、同意が取れている場合」も含んでおります。もちろん、一概には言えませんが、私は近親者との間では対等な関係を築くことが非常に難しいと思っておりまして、その意味でも、血縁関係にある者同士の恋愛を描く場合は、最低限注意書きは必要だと考えています。

  2. カイリ より:

    お忙しいところ、お返事ありがとうございます。
    確かに、「対等な関係が築けないのではないか」というご心配はよく分かります。私自身も家族間の性暴力についてニュースなどで知ることが多く、同じように感じました。また、単純に近親者同士の恋愛・性愛描写が苦手な方もいらっしゃるでしょう。ですから、(同意がない性的接触などの)暴力的な描写に関しては作中で注意書きや批判的な考察が必要ですし、見たくない人は見なくて済むようにすることが望ましいでしょう。
    そのうえで、私は「全員が成人していて、きちんと同意がとれている場合」に関しては
    作中よりも検索の段階でゾーニングをすべきだと考えております。というのも、現実に近親者と健全なパートナー関係を築いている方は少なからずいらっしゃるからです。実際、当事者の方が2017年に約160人に行ったオンライン調査で関係の状態を尋ねたところ、「良い」が72.5%、「やや問題あり」が22.9%、「問題あり」が4.6%という
    近親者ではない人同士の関係と同様と思われる結果が出ていました。
    (詳しくはこちら;https://consanguinamory.wordpress.com/2017/06/06/the-consanguinamory-study-analysis/)
    調査の規模があまり大きくないので、正確にどれぐらいの割合で当事者がいるか等詳しいことは不明ですが、少なくとも健全なパートナー関係を築こうとしている方々に配慮する必要はあるのではないでしょうか。
    また作中では、例えば性的同意をとる際に「断られても相手の不利益になるようなことはしない」といった約束を守るなど、お互いの立場を尊重する描写を増やすことで関係性への偏見をなくすきっかけになるのではないかと考えております。
    したがって、私は次のようにするのが良いのではないかと思います。

    ・同意がとれていない場合(未成年者がいる場合も含む):注意書き、批判的な描写
    ・同意がとれている場合:タグ付けなどで検索除け、立場を尊重する描写を丁寧に

    長文になってしまい失礼いたしました。いかがお考えでしょうか。

    • Candice / Chihiro より:

      カイリさんありがとうございます!お返事が遅くなってしまってすみません。私もあの後色々調べまして、注意書きを最大限を行ったうえで、仰る通りの対応をとることが最も望ましいのではないかと思います。調査結果を含めてさまざまご指導いただきありがとうございます。

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