本レシピのポイント(作成者:ちろちろ)
✔ 高校生の頃、同人誌を買いたかったが、どうしても買えなかった。
✔ 20年の時を経て、あのときの焦燥にも似た同人誌への渇望の理由を知った。
高校生の頃、私には切実な悩みがあった。
ー男性同士の恋愛を描いたアマチュア本、いわゆる「同人誌」を買いたいという悩みが。
親に「おデブちゃんには恋愛なんか100年早い」とからかわれ、友人同士の恋バナが始まっても何も話すことがなく立ち尽くす「奥手」な高校生だった私だが、暇があればpixivで男性同士の恋愛が描かれた小説や漫画を読み漁っていた。なぜそこまで突き動かされるかはわからなかったが、読んでいると心の欠けた部分が満たされる気がした。
熱に浮かされたような衝動はすぐ、同人誌を買ってみたいという欲求に形を変えた。
しかし、当時の私には、コミケなどのイベントに足を運ぶ勇気がなかった。からかわれたり場を盛り下げたりするのが嫌で、「性や愛に関する話題に全く興味がない」というスタンスを貫いていたためだ。自分が同人小説・漫画に熱中しているという事実を誰にも知られたくなかった。
それでも欲望は募る。悩みに悩んだ末、仲の良い同級生に同人誌を買ってきてくれと頼んだ。彼女は笑って言った。
「あんたにも人並みに性欲とかあるんだねw」
それでもうダメだった。号泣しながら帰宅した。あんまり泣いたので、道ゆく人が見てはいけないものを見た顔で固まっていたのを覚えている。
その日、pixivを退会した。
それから20年近く経った今。
彼女にこの話をしたところ、すぐに「とらのあな」「まんだらけ」に連れて行ってくれた。沢山の同人誌が並ぶ空間にテンションは最高潮、大人の財力を活用して手当たり次第に購入した。
家に帰って、ゆっくり読んだ。「ホモ」呼ばわりなど、ステレオタイプを感じるものもあったが、同性同士が愛し合うことを丁寧に、偏見を廃して描いてくれる作品もたくさんあった。
高校生の頃の同人誌への渇望の正体はこれだったのだと思った。自分のセクシャリティに悩んでいた私は、同人誌を通じて、多様な愛の形を知りたかったのだ。
20年の歳月を経て私は、
きゃんきゃんと出会うことで愛を知った私は、
ついに、同人誌を買って、読むことができた。
最後の同人誌を読み終え目を閉じると、心の片隅に焼き付いていた高校生の私の焦燥が、ほろほろと溶けて崩れていくのを感じた。
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