「百合」同人誌じゃダメですか?

レシピ / RECIPE

本レシピのポイント(作成者:ちろちろ)

✔ 前回の記事について「なぜ、男性同士の恋愛を描いた同人誌を読みたいと思ったのか?女性同士の恋愛物じゃだめなのか?」と質問を受けた。

✔ 考えさせられる質問だったので、回答をここに記しておく。

前回「男性同士の恋愛を描く同人誌を買いたい」という長年の夢を叶えた件について書いた。

記事をアップした翌日、友人にこう尋ねられた。

友人
友人

なんで女性なのに、男性同士の恋愛を描いた同人誌を読みたいと思ったの?

女性同士の恋愛ものじゃだめなの?

少し考えてから、3つの理由がある、と答えた。

①自分の女性としての身体が嫌いだったから

 私は、
・小学校のとき変質者に体を撫で回されたこと
・「男だったらよかった」と言われて育ったこと
・中高時代、デブだ、ブスだとからかわれたこと
等から、自分の女性としての身体が嫌いだった。

高校生の頃はそれがピークに達しており、お風呂に入るのも嫌だった(以下の記事に詳しく書いたが、「自分の身体は汚いスライムだ」と思い込んで生きるしかなかった)。

だから、男性同士の恋愛は、「女性の身体が介在しない」という点で、読んでいて気が楽だった。

溝口彰子氏の『BL進化論』は、この「ルッキズムや性差別に苦しむ女性の逃げ場所」としての男性同士の恋愛作品の求心力をよく考察している。

(男性同士の恋愛作品は)女性の様々な願望が投影された男性キャラたちが、「奇跡の恋」に落ちる物語群であり、女性が、家父長制社会のなかで課せられた女性役割から解き放たれ、男性キャラクターに仮託することで自由自在にラブやセックスを楽しむことができる…(中略)…つまり、キャラが読者とは異なる性別であるからこそ可能な、現実逃避が約束されたジャンルなのだ。
ー『BL進化論』(溝口彰子、太田出版、2015)より引用(p.10)。太字は執筆者による。

『BL進化論』と『BLの教科書』は本当に名著

②エロ特化の百合漫画ばっかりだったから

高校生の私が、女性同士の恋愛を描いた、いわゆる「百合」を読まなかったわけではない。だが、終始キス!ハグ!おせっせ!という印象だった。

私は(精神的な交流の積み重ねを重視するデミセクシャルということもあって)丁寧な心理描写を好むため、延々続く「女の子ってやわらかい♡」的な桃色展開に辟易し、自然と、男性同士の恋愛ものばかり読むようになった。

「男性同士の恋愛ものだってエロばっかだろ!」と思われるかもしれない。だが実感として、男性同士の恋愛ものが登場人物の心情や周囲との軋轢などの心理描写にページを割いてくれる率は、「百合」に比べて圧倒的に高い。その理由は、『BL進化論』の表現を再度借りるが、

ジャンルが成熟するにつれて、当初は意識的に排除されていた女性性や、「他者」にすぎなかった同性愛者について誠実な想像力をはたらかせる作家が増えた…(中略)…男性同士の恋愛を軸とした物語を女性作家が女性読者のために創造するBLというジャンルそのものについて自覚的・内省的な作家が増え、そこに彼女たちのミソジニーやホモフォビア、異性愛規範についての認識が誠実な想像力をとおしてリンクした
ー『BL進化論』より引用(pp.137-8)。太字は執筆者による。

からだろう。ジャンルの普及につれて、「苦しい現実からの逃避先」としてだけではなく、
苦しみへの対処を示すもの(登場人物が同性同士の恋愛への葛藤や周囲の無理解を根気強い対話で乗り越える展開等)
あるべき理想を示すもの(同性同士が恋愛する可能性を、登場人物が自然に受け入れる展開等)
等、現実に「立ち向かう」作品が増え、心理描写に力点が置かれる度合いも高くなっているのだ。

そう考えると、男性にとっての「百合」漫画は、精神的な逃避先ではなく、身体的な欲求発散を主目的として生み出されてきた作品群なので、肉体的な描写に力点が置かれるのは当然だ(※)。

(※)現在web連載中の「つくたべ(作りたい女と食べたい女)」は貴重な「例外」である。女性(同士の恋愛)に対する社会の無理解や、そこに根差す登場人物の苦しみと葛藤をここまで丁寧に描いてくれた作品は日本漫画史上初めてだろう。こうした作品がもっと増え、「百合」ジャンルが「進化」することを願ってやまない。

奇跡のような作品、つくたべ。

③探すだけの気力がなかったから

最後に、同人小説や漫画を読んだことがある人はわかると思うが、自分好みの同人を探すのはめちゃくちゃ気力がいる行為だ。人それぞれときめく「ツボ」と絶対に許せない「地雷」がある中で、自分の心を射抜く作品に出合うのは、大海で一粒のサファイアを探すようなものだからだ。

例えば、私が男性同士の恋愛ものを探すときの「自分ルール」は以下の通りである。

・ハッピーエンドがいい(死ネタや破局は嫌)
・お互いを尊敬しあう関係がいい
・近親相姦・ペドフィリア・強姦・洗脳・監禁はNG(犯罪です)
・「孕む」とか「メス」とか相手を女として扱(って貶める)ような描写はNG
・「ホモ」とか「ソッチの人」とか差別用語や偏見が出てくるのはNG
・「攻」「受」表記が苦手 etc…

めちゃめちゃあるじゃないかって?
うん、自分でもそう思う。が、譲れない。

ゆえに、「うおお!素敵!」と思える男性同士の恋愛ものに出会えるまで、延々とネットサーフィンすることとなる。そこからさらに(大量の「あっは~ん」展開の中から)グッとくる女性同士の恋愛ものを探し出す気力は、私にはなかった

友人
友人

…なるほど。

男性同士の恋愛なんて女性にわかりっこないくせに何が「萌え」だ、と思ってたんだけど、「苦しい現実を生き抜くためのおくすり」なのかな。

私

そうだね。「萌え」の本質は、生きる気力の喚起なのかも
もちろん、「女性が男性同士の恋愛を描く」という時点で、差別や偏見を廃することは不可能だと思うけど、自分の苦しみや葛藤を、物語の登場人物に昇華してもらうために書く/読む、というのは、ほとんどの創作にあてはまることだと思う。

友人
友人

俺もなんか読んでみようかな…実は「つくたべ」はTwitterで見かけてちょっと気になってたんだよね。

私

あっ「つくたべ」は最高だよ!ご飯がおいしそうだし春日さんが大口をあけてかぶりつく姿がかわいすぎるし野本さんがゆるゆると自分の恋心に気付いていくのがたまらん、ふたりの抱える苦しみもすごくわかる、例えば生理痛になって苦しむ野本さんを春日さんが看病してくれる回とかすごく共感したし、春日さんが育った女性蔑視な家庭とかの描写もリアルで…

友人
友人

急な早口こわっw

…とりあえず、リンク送って?

(終)

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