(本レシピのポイント(作成者:ちろちろ))
✔ 私も含め、誰もが、他人をスライムに変えてしまう黒魔術も、スライムを人間に戻す白魔術も、どちらも使える。
✔ そのことを肝に銘じて、日々の発言ひとつひとつに気を払っていきたい。
その日、車内の雰囲気は最悪だった。
些細なことで癇癪を起こした父が、ねちねちと母に嫌味を言い続けていた。
目に涙を貯める母を見て、小学校低学年の私は、とっさにまくしたてた。
あのさ、男子にメガネザルみたいって言われたんだけど、美人は三日で飽きるって言うじゃん?ブスでよかったと思ってる!
車内がしーんとなる。よし、つかみはOK、話をそらせるかも!
だってそしたら勉強だけに打ち込めるしさ、おしゃれとかにお金かけなくていいしさ、ブスのほうが美人より人生の成功者になれると思うんだよね・・・
今考えてみるとルッキズム以外の何者でもないが、車内の静けさに高揚した私は、思いつくままに即席「ブス至上論」を続けた。
一度見たら忘れられないしさ、笑ってもらえることも多いし、だから・・・
そのとき、黙っていた父が不意に口を開いた。
自分のことをブスって言う女が一番ブスなんだよな。
後のことはよく覚えていない。
それからずっと、その言葉は、心の中で根を伸ばし続けてきた。
中学校でできた沢山のにきび、
高校の頃友達に「あなたに触られると、ゼリーに触れたようで嫌だ」と言われたこと、
公務員試験前に20キロ太ったこと、
母に人前で「この子は太いから着れる服がない」と何度も言われたこと、
会社で「化粧したら見れる顔になるのに」と言われたこと、
飲み会で「デブには欲情しない」と言われたこと、
いくらでも養分はあったから、いくらでも根は伸びた。
いつしか私は、自分のことを「スライム」だと思うようになっていた。
気を抜くとぐずぐずに溶ける、どろどろした粘着質のゼリー。ぐちゃぐちゃの汚水の渦。
時は過ぎ、Twitterできゃんきゃんと出会い、初めての恋に落ちた。
写真を送ってほしいと言われ、重大な問題点に気づき、早速返信した。
私はスライムですから。見せられるような姿じゃないです。
スライム!?どういう意味ですかそれ!?
いや、気を抜くと人間の姿をとどめられなくて。
そんなわけないでしょwともかく送ってくださいよ!ね、お願い
・・・早い恋の終わりだったな、と思った。彼女はきっとどん引きするだろう。
嘆息しながら、写真を探す。自分の写真を見るのは嫌いだった。
目をつぶっている写真を選んで送った。
えーっ!!(@@)
彼女から驚きの表情の絵文字が送られてくる。机に突っ伏す。終わった-
すごくかわいい!(@@)
瞬間、自分が-どろどろの濁ったゼリーが-するっと透明感を取り戻して、人の体を形作るのを感じた。
かわいい?私が? …いや、そんなはずはない。 成人式でお化粧してもらったときも、「小錦みたいだ」って笑われたのだから。
ずるっと、スライムが体を覆いなおした。
それでも-何度スライムに戻っても、彼女は私にポジティブな言葉をかけ続けてくれた。
毎日、毎日、根気よく、「かわいい」「素敵」と言ってくれた。おかげで、
少しずつ、カメラの前で笑えるようになり。
少しずつ、鏡を正面から見られるようになり。
少しずつ、自撮りを彼女に送れるようになって。
いまではだいぶ、人間だと思えるようになってきた。
…けれど、今でも、ふとした拍子、気を抜いているとき、疲れているとき、スライムに戻ってしまう。
たべものを口に運ぶのが怖くなり、
人の目をのぞきこむのが怖くなり、
外を歩くのが怖くなる。
積もり積もった家族の、友人の、周囲の言葉が、肌にまとわりついて分厚い油膜を作る。
そうして私は、今日も、家で、出先のトイレで、エレベーターで、鏡を見るたびに呟く。
「鏡よ鏡、鏡さん、今の私は人間?
・・・それとも、スライム?」
コメント / COMMENT
[…] ㊳気を抜くとスライムに戻ってしまうんです/The Spell of Lookism Changed Me into…小さいころから少しずつかけられたルッキズムの呪文が、私をスライムに変えた。The spell of lookism changed me into… disgusting slimy thing. […]