10回みました!映画『ゴールデンカムイ』(ネタバレなし感想&考察)

レシピ / RECIPE

✓ 映画『ゴールデンカムイ』を原作ファンの私ちろちろが見てまいりました
※きゃんきゃんは、二次元は二次元で楽しみたいタイプなので今回欠席

✓ 実写に良い思い出がなくて敬遠していたのですが、ファンにもご新規さんにも全力でお薦めできる最高の作品でした…煌めいちゃいました…!!

✓ ぜひ劇場に走っていただきたいので、今回はネタバレなしでお届けします。また、現在ネットで議論になっている「アイヌの俳優さんが起用されていない」問題にも言及します。

※刺さりすぎて10回観たので感想を赤字で加筆します。

映画『ゴールデンカムイ』を観てまいりました!!

私は原作漫画の大ファンで、正直、今回の実写化にはいい印象を持っておりませんでした…。

というのも漫画の実写化にいい思い出が全くなく(『デビルマン』『キャシャーン』『進撃の巨人』すべて観てきたと申せば察していただけるかと思います)これはもう終わった…と思っていたのです。

また、私がゴールデンカムイ(ゴカム)を好きな一番の理由が、主人公のひとり、杉元佐一さんで。

めちゃくちゃ強いのに、弱者を見下さず、差別に公然と声をあげる勇気を持っている

固定的なジェンダー価値観や正義感の押し付けがない

自身も沢山のトラウマを抱えながら、他人のために行動できる

という…もうかっこよさしかない主人公なんですよね…。

そんな杉元さん、原作で意識的に「男らしさ」を押し出さない描かれ方をしていまして(「かわいいものが好き」など、性別役割から逸脱した行動をとる)、それが山崎賢人さんという「男性」がガッツリ演じちゃうというのがそもそも「なんかいやだあ!!」となってまして。

アイヌ民族が作品の根幹を成しているにもかかわらず主要キャストにアイヌ俳優がいなかったり、ポーランド人設定の人を日本人キャストが演じていたり、そういう点も含めて、全然期待できないな…と思っていたのです。

それでも、原作を愛していますから、一度は観ておこうと劇場に足を運んだ…のですが…

最高だった。

最高すぎてなんか…塵になったぐらいよかった。とにかくよかった。もう全人類劇場に走ってほしいしだからこそこの記事を書いているんですけど書いている最中も劇場に走りたくてもう自分がおさえられないです杉元さんかわいいよ杉元さん(落ち着け)

はあ、はあ…深呼吸、深呼吸。

まず…原作で私が杉元さんを好きになったセリフが完全再現なんですよね。具体的には

「そのアイヌはお前の犬か?」というアイヌ差別に「慣れる必要はない」と言い切るシーン(差別を許さない確固たる姿勢)

アイヌ料理を「このままでも十分おいしい」と肯定しつつ、「味噌を入れたらもっとおいしいのでは」と提案するシーン(他文化・他者を尊重する姿勢)

のふたつなんですけど、「ああ…実際にはこういうことだったのか」と胸にすとんと落ちるほど完璧な実写化だった。私がいままで観てきた実写作品って、変なオリジナル設定を入れたりセリフを改変したり、そういうのばっかりだったのですが、この映画「ゴールデンカムイ」は、原作のよさや大事な台詞を完全再現しつつ、テンポよくお話を進めてくれるので、もうその時点で100点でした。原作大好きな皆様にも原作未読の皆様にも何のためらいもなく薦められます。結構オリジナル展開が多いんですが、「これこうなってたのか!」「この二人のバトルも見たかったんだよね」という内容なので寧ろ大歓喜というね…杉元さんの不死身っぷりが大好きな私としては串団子からの流れが最高でした。あと原作の杉元さんとリパさんは「対等な相棒」で、そこがいいので、リパさん役の方の年齢が高めに変更されても恋愛要素を足さずにいてくれたのはすごくありがたかった。異性間も恋愛がなくても映画は面白くできるんだって考えがもっと広まるといいな。

癖の強いキャラたちが「実際にいたらこうなんだろうな」と思える最高のレベルで画面に登場してくるんだから大歓喜するしかないんですよね。杉元さんも、心配していたような「男!男!」みたいな感じでは全くなくて、かわいらしく、エビフライ(杉元さんの好物)をたくさん食べさせてあげたくなりました。ごはん描写がおいしそうすぎる~!!

日露戦争を舞台にしたり、軍人が多く出てきたり、一歩間違えば戦争礼賛になりかねないところ、戦争の悲惨さ、苦しさ、喪失を前面に押し出していたのも、現代の作品としての誠実さを感じました

また杉元さんの話に戻っちゃうんですけど、作品内で最強ポジションということもあり、バーサーカーみたいに語られがちです。しかし、この映画の杉元さんは「疫病と戦争で全てを失った等身大の青年」として描かれていて、年相応の笑顔をのぞかせるシーンがあるからこそ、闘いのとき見せる真っ暗な目が切なくて悲しくて〜!!自然、「美味しいもの食べてあったかいところにいてほしい!」ってなるし、リパさんという相棒を得られた事実にじーんとなる。感情移入させる話の作りがうまいなと。アイヌ語を全部おうむ返しにしてるのも、わんこみたいでかわいいんですよな…。

バトルシーン増し増しだったり、ほどよくギャグシーンが盛り込まれていたり、娯楽映画として品質が非常に高いからこそ、重いテーマを正面から描くことができていると思いました。杉元さん、戦争さえなかったら、明るく楽しく暮らせてたんだよなあって…。

北海道の自然やヒグマなどの動物の描き方も尊敬と畏怖が感じられてよかった!無理に美しくしようとしてないのに美しくて、けれど残酷。雪の白さが血の紅さ、陽光の輝きを際立たせていました。砂金の描写と降る雪が重なるようなところもあって胸熱!!

音楽もよすぎて即サントラ買いました。盛り上げるところで盛り上げてくれるし勇壮でかつ切ない感じがゴカムにとても合ってる。杉元さんが二階堂の大事なものを盗むシーンの曲の盛り上がり方が好き。ACIDMANの主題歌もエンドロールで大画面で流れると感無量。

今回は第一作ということもあって杉元さんという人物とアイヌの少女・アシㇼパさんとの出会いを丁寧に描いてくださった印象で、これからほかのキャラとの掛け合いがみられると思うとドキドキわくわく。特に原作屈指の杉元さん強火オタクこと尾形さんが今回顔見せぐらいの登場でしたので、次回はしっかりじっくり杉元さんとの掛け合いを見せていただきたいですよ!!激重感情見せて!!(と、次回作が当然ある感じで書いてますが…ありますよね???なかったら泣きます)二階堂と月島もめちゃくちゃよかったな…なにあれ完全再現すぎる。こんなクオリティで実写見られると思ってなかったです…二次元で読んでいた景色が三次元となって現れる経験にしびれちゃうんだよな…あとロゴの出方かっこよすぎですわ!!ぜひIMAXのでっかい画面でご覧いただきたいな…

最後に、冒頭で触れた私の問題意識、「アイヌ俳優さんがほとんど出てこない」「外国人の役を日本人が演じている」ことについて、前者は現在ネット上で議論を巻き起こしています。具体的にはこちらの記事をご覧ください。

(以下記事から、原作者野田サトル先生の発言を抜粋)

「アイヌ描写について原作を信じてください。」ということですね。先日も、原作のアイヌ語監修であり実写でもご協力いただいた千葉大学名誉教授の中川裕先生と再会した際に、おっしゃっていたのですが「自分が知る限り『ゴールデンカムイ』を嫌いと言っているアイヌはいない」とのことでした。若いアイヌの方たちにも非常に良い影響を与えていると。

演技とはちょっと違うんですが、役者さんという存在として注目なのは、アシ(リ)パの大叔父役の秋辺デボさんですね。実際にアイヌの血をひく方で他の作品でもアイヌの役を演じている方です。映画業界では昨今、「マイノリティの役はマイノリティに」という意見がありますが、今作品ではデボさんのようにアイヌルーツの方も出演されています。

なにより、アイヌルーツの方々というのは本来、役者業ではなく、工芸家として世に出ている方が圧倒的に多いので、適材適所として、この映画においては演技よりも、衣装や民具や村のセットの制作に大きく関わっています。決して映画というのはキャストだけで成り立っているものではありませんので、もっと一歩深い考えで、この映画を判断していただきたいですね。

…なんとなく炎上の理由はおわかりかと思います。私も、ゴカムを嫌いなアイヌがいないみたいな言い方は(自分の知る限りと注釈がついていたとしても)言いすぎだと思いますし、衣装や民具でアイヌの方が活躍しているからと言って「アイヌ俳優さんがアイヌを演じるべき」という原則は変わるものではないと思っています。勿論、映画の全てを否定するわけではないです原作のチタタプシーンチタタプと言いながら生肉を叩くのがアイヌの文化のように描かれて、正しくないと問題になったのですが、映画ではその点の注釈がきちんとつけられていて誤解を生まないようになっていました。アイヌ語の表記を字幕でも表示してくれる点も誠実さを感じます

でもですよ、たとえば日本のゲーム業界を描いた映画で「任天堂やソニーの製品が登場しているので日本人の役はアメリカ人に演じてもらいました」なんて言ったら大炎上ですよね?映画『リトルマーメイド』で黒人がアリエルなんて!と散々叩いていた人たちはどこに行ったんですか?

ただ、ひとつ言いたいのは、ゴカムという作品が、アイヌやアイヌ差別に注目し、議論する「流れ」を作るうえで大きく寄与したことは間違いないということ。

杉田水脈議員のアイヌ差別(下記記事参照)からもわかるように、現代日本でも明確にアイヌ差別はあって、一方で、なかなか注目されにくいテーマでした。かくいう私も、中学生の時にアイヌ差別を学んだきり、学びを深めようとは思いませんでした。

「ゴールデンカムイ」を読んで、一緒に単行本を追っていた祖母から「もともとアイヌの人は日本全国にいて、和人の迫害によって北に追われていった」「私の周りでもアイヌ差別は根深くて、毛深いからすぐわかるとか言われていた」という話を聞いて、反省し、アイヌ文化や歴史について調べるようになったばかりです。今回母を映画館に連れて行ったのですが、「学校でアイヌ差別のことを習ったことはなく大人になってから文学作品で初めて知った」「それまではアイヌの人はもういないと思っていた」という話を聞くことができて、可視化というのはどんな分野でも大前提になるものだと改めて思いました。

この映画を観て感動した皆様や、このブログを読んでいただいて作品への興味をひかれた皆様には、ぜひそうした側面にも目を向けていただき、アイヌ差別を根絶するために何ができるか、心ない言動を減らすために何ができるか、一緒に考えていただきたいと思います。「天から役目なしに下ろされたものは、一つもない」のだから。


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