DSDとトランスジェンダーは違います

レシピ / RECIPE

✓ パリ五輪を契機に、LGBT+コミュニティ関連のヘイトスピーチや誤解・偏見がネット上で噴出していて凹みます

✓ ボクシング女子66キロ級の2回戦で、アンジェラ・カリニ選手(イタリア)が試合開始後すぐに棄権、対戦相手のイマネ・ケリフ選手(アルジェリア)について、女子カテゴリーへの参加が疑問視されたことについても、フェイクニュースが飛び交っています

✓ ケリフ選手はDSD(性分化疾患)であり、トランスジェンダーではないので、その点ここで整理しておきます

思えば、パリ五輪が開催された時から、不穏な予兆はあった。開会式にてドラァグクイーンやトランスジェンダーのモデルが登場し、「最後の晩餐」を思わせる演出があったことについて、
〇「ドラッグクイーン」と誤記する日本メディアがあったり(ドラァグ(drag)は長い衣装のすそを引きずる(drag)からドラァグクイーン。drug(薬、ドラッグ)ではない)
〇いつものあの人が「LGBTは目立たないようにひっそり生きとけ」と持論を展開したり(日本がLGBTに本当に寛容なら、そんな意見出ないはずじゃないんですかね~???)
して、またか…とうんざりしていた。

そんな中、最近ネットをにぎわせている問題として、ボクシング女子66キロ級の2回戦で、アンジェラ・カリニ選手(イタリア)が試合開始後すぐに棄権、対戦相手のイマネ・ケリフ選手(アルジェリア)について、女子カテゴリーへの参加が疑問視されたことがある。

ケリフ選手はDSD(性分化疾患)でXY染色体を持つ女性なのだが、ひろゆき氏が「元男性」とトランスジェンダーであるかのようなフェイクニュースを発信したこともあって、「トランスジェンダー女性がシス女性を圧倒した」というような誤解が広く取りざたされている。

DSDについては、南アのセメンヤ選手のケースについて取り上げた記事及び鹿島田健一医師の解説(下記)が非常にわかりやすい。記事にある通り、「「女性だったら絶対に膣や子宮があるはずだ」、とか、「男性だったら尿道口がこの位置にあるはずだ」という固定観念とは異なる体の状態を持っている人たち」がDSDであり、性自認(自分はどの性別に属するかについての観念)の話とは全く違うのだ。

※トランスジェンダーは、生まれた時自身に割り当てられた性別とは異なる性別を生きる人の総称で、性自認の話と深く関係してくる。

しかも、この記事や鹿島田医師の解説でわかる通り、「XY」遺伝子を持っていても、セメンヤ選手やカリフ選手のようなケースは「生まれつき男性ホルモンの作用が伝わらないため、外性器の男性化が障害され…完全に女性型にな」るのであり、「DSD女性の場合は、テストステロンがどれだけ出ていても、全く反応しないという女性が実は一番多い…テストステロン値だけで測ることは、実は、できない」のである。ネットで言われているような「XY遺伝子がある=男=絶対有利」の単純な図式ではない(実際、カリフ選手は東京五輪でアイルランドの女性ボクサーに敗北している)。

カリフ選手は女性の権利が確立したとは言えないアルジェリアで、女性として生まれ育ち、本人も自身を女性として捉え、女性ボクサーのパイオニアとして道を切り開いてきた(下記記事参照)。

それが性別検査で急に「XY遺伝子があるのであなたは女子競技には参加できません」と言われたのだ。そんなことが認められるのであれば、元々体格的に恵まれて生まれてきた人はどうなるのか?運動神経に優れて生まれてきた人はどうなるのか?スポーツの世界で勝ち上がるには、努力だけでなく、遺伝子的な要素も必要だというのは暗黙の前提である。これでカリフ選手を弾き出すのであれば、その領域に足を踏み入れ、優生学的な議論を招きかねない。だからIOC(国際オリンピック委員会)は、この件に関してIBA(国際ボクシング協会、カリフ選手を不合格にした)を徹底的に批判している。

しかも、これはスポーツの世界だけの話ではない。仮に「XY遺伝子がある人は女性ではない」とするなら、セメンヤ選手やカリフ選手のような人は、学生時代の部活でも女性スポーツに参加できないのか?女性専用列車に乗れないのだろうか?女子トイレを使えないのか?…と、社会上の様々な話に延伸していく。全ての人が性別検査を義務付けられるような世界、それってディストピアに他ならないのでは?社会から割り当てられる性別と、染色体上の性別、人間はどこまでそれに縛られねばいけないのか?

この件に関して議論するなら、こうした基礎知識や論点を頭に入れたうえで議論する必要がある。「XY染色体を持っている=男」とか、「テストステロンが多い=有利」とか、そういう単純な話ではないのだ。(というか、だからこそ、「元男性が女性をタコ殴りに!」みたいな”単純”なフェイクニュースやヘイトスピーチがここまでまかり通るのだろう)。

最後に、この件もそうだが、こうしたことで注目されるのは圧倒的に有色人種の女性であるということも指摘しておく。オリンピックはその発祥からいっても間違いなく、白人男性中心で作られたものだ。だからこそ、その定義にあてはまらない「有色人種の女性」がこうした問題のターゲットになり、誹謗中傷や侵襲的な検査の犠牲になり続けている。この問題がそうしたオリンピックの不公平性についても目が向けられるきっかけになってほしいと願う。

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