本レシピのポイント(作成者:ちろちろ)
✔ 同人誌作成経験がある友人から、「どういう表現なら当事者の人にも安心して読んでもらえるのか、今一歩わからない」と相談を受けた
✔ というわけで、私が男性同士の恋愛を描く作品を読むとき、ここが押さえてあると安心!という10のポイントを紹介したい(今回は⑥~⑩。①~⑤は前回の記事参照)
前回に引き続き、パンセクシャル(性別にとらわれず人を好きになる人)の私が男性同士の恋愛を描く作品を読むとき、ここが押さえてあると安心!という10のポイントを紹介したい。今回の記事では⑥~⑩をご紹介する。
※前回述べた通り、絶対にこれらを守って!というものではなく、以下のポイントを踏まえた作品だと、同性の恋人を持つひとりの読者として嬉しい、という話である。
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【安心できない例】
・「メス顔しやがってよ…」
・「女にしてやる」
・「孕ませてやる」
・「色白で柔らかい肌だな…女みたいだ」
男性同士の恋愛もので、割と頻繁にある表現として、(特に性的なシーンにおいて、屈辱を与えたり、煽るために)一方を「女性」として扱うものがあるのだが、これは
・多くの場合、女性を男性より「下」のものとして位置付けていること
・性別に基づくステレオタイプを強化すること
から、読んでいて、読者としても、ひとりの女性としても、「うーん…」という気持ちになる。
実際、きゃんきゃんも私も、「どっちが男役?」と聞かれたことがある。「同性同士のカップルであっても、一方は男らしく、一方は女らしくなければならない」というのは異性愛絶対主義に基づくステレオタイプそのものなのだ。
こういう描写を使わなくても、「こらえ性がない」などの煽り文句とか、「吸いつくような肌」などの誉め言葉とか、日本語にはいろいろ素敵な表現があると思う。
【安心できない例】
・「男は女と違って全力で抱いても大丈夫だから最高だな」
・「女じゃないんだから、優しくするな」
・「女みたいに華奢じゃないんでね」
反対に、男性同士の恋愛であることを強調するためか、過度に「女性でない」こと(のメリット)がアピールされることもある。しかし、これも
・多くの場合、女性を男性より「下」のものとして位置付けていること
・性別に基づくステレオタイプを強化すること
から、げんなりする点では同じである。女性じゃないって連呼してくれなくていいよ!男性同士の恋愛ってわかって読んでるんだから!
「お前は体力があるから全力で抱いても大丈夫」とか、「俺は鍛えてるから優しくするな」とか、その人個人の長所や美点で説明してほしいよ!!
別にカップルだからと言って必ずおせっせしなければいけないわけではないし、男性同士だからと言って絶対に肛門性交をしなければいけないわけではない。
そこに電車がある以上、トンネルに入れたい気持ちはわかる。だが、入れて生で発射しないとおせっせじゃない、という雰囲気があまりに強いと、肛門性交のリスクも考えて!?セーフセックスは大事!という気持ちになってしまう。
作品によっては、割り切って「この漫画に登場するおせっせはファンタジーです」「この二人は特殊な訓練を受けています」と書いてあったりして、訓練を受けているならしょうがないね!となるが、「男性同士の恋愛」という創作ジャンルもかなり成熟してきていると思うので、挿入以外の触れ合いを丁寧に描いてくれている作品や、どこにお尻の穴があって、どう挿入したら直腸を傷つけないかなどが考慮されている作品のほうが、穏やかな気持ちで読めるのは間違いない。
【安心できない例】
「Bはゲイだよ。抱いてもらえば?」
何事もないように言い放つCに、Aは開いた口が塞がらない。
「な、なに言ってるんだよ!」
「本当だって。会社では言ってないけど、俺あいつゲイバーで見たもん」
アウティングとは、例えば私が会社でパンセクシャルであることを公表していないときに、会社の人が勝手に第三者に「あの人パンセクシャルなんだよ」と言ってしまうことであり、自殺まで追い込まれたケースもある、深刻な人権侵害である。
男性同士の恋愛作品だと、出会いのきっかけだったり、関係性が変わる転機として、上記の例のようにカジュアルにアウティングが行われるケースがあり、しかも特に批判がなされず進んでいってしまうので、正直アウティングされた人のことが心配で話の筋どころではなくなってしまう。
現実にアウティングが行われてしまうことを防ぐためにも、Bが自身のセクシャリティを公表している設定にするなどしてもらえると安心である。
かつて私は、ケビン・スペイシーという俳優さんが好きで、出演作は必ずチェックしていた。しかし、年下の男性に対する強制わいせつを行っていたことが明らかになり、その人の作品はもう見ていない。どんな素晴らしい作品でも、作者が信頼できなければ、安心して目を通せない。
最近は、SNSで気軽に漫画や小説をあげられるようになり、私も好きな作者さんのアカウントを複数チェックしているが、「ほも絵あげたよ!!」などと投稿されていると、そっとフォローを外さざるを得ない。何度も推敲を重ねる作品本体より、こうした「作品の外」の方が、その人の素の知識や価値観が出る。そこで信頼できる人の描くものは、安心できることが多い。
以上、前回に引き続き、安心ポイント⑥~⑩をお届けしたが、いかがだったろうか。誤解しないでいただきたいが、特定の作品を批判したり、貶めたりするつもりはない。
高校の時一生懸命ネットサーフィンしていたころより、はるかに男性同士の恋愛ジャンルは成熟し、進化を遂げていると思う。ここで挙げた10のポイントは、あくまで私の個人的な見解であり、押し付けるつもりはない。
ただ、日本のLGBT+を巡る状況が厳しさを増す中で、できればより多くの作品が、辛い現実に疲弊する人にとって、安らげる場所を提供するものであってほしいと祈っている。
萌えとともにあらんことを!
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