【役人目線で②】憲法と同性婚

レシピ / RECIPE

(本レシピのポイント(作成者:ちろちろ))

✔ 前回の記事に引き続き、札幌地裁訴訟を役人目線で考えます。

✔ 今回は本訴訟で示された憲法解釈についてです!

  ー憲法何条に照らして違憲か
  ー判決が国会に求めたもの
  ー憲法改正は必要か

  について、順を追って考えます。

1 はじめに

札幌地裁訴訟について、前回の記事で「法律」に焦点を当てて議論したところ、「同性婚が認められないのは違憲」という判決が出た訴訟なので、「憲法」についてフォーカスした記事も必要では、との意見をいただいた。

というわけで、今回は、札幌地裁訴訟の違憲判決について、

  • ①憲法何条に照らして違憲か
  • ②判決が国会に求めたもの
  • ③憲法改正は必要なのか

の3つを、順を追って考えていきたい。

2 憲法何条に照らして違憲か

今回の訴訟で、原告は、同性婚を認めないことは、
・憲法第13条(幸福追求権)
・憲法第24条(婚姻の自由)
・憲法第14条第1項(平等権)

の3つに違反する、と主張した。

第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

第二十四条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
2・3 (略)

これに対して、裁判所は、以下の通り、「第14条第1項に照らして違憲」との判決を下した。

2.判決が国会に求めたもの 

裁判所がこの違憲判決で国会に求めたことは何だろうか?
・「結婚制度」を「ある国の遊園地」、
・「結婚制度の利益(配偶者控除等)」を「遊具(ジェットコースター等)」、
・「憲法」を「ある国の基本ルール」、
・「国会」を「遊園地の経営者

にそれぞれ置き換えて考えるとわかりやすい。

・・・というわけで。本判決が国会に求めているのは、遊具、もとい、「結婚によって得られる利益(の一部)」を同性ペアでも受けられるようにすることである。

 

3.憲法改正は必要なのか? 

前回の記事で、私は、この要求を国会が満たすためには、法律改正が必要(=憲法改正はいらない)と述べた。一部の人は、憲法改正が「必須」だと思っているようだが、大きな間違いである。憲法改正は「不要」であるし、さらに言えば、多くの当事者は憲法改正を望んでいない

なぜか?
「結婚によって得られる利益(の一部)」を同性ペアも受けられるようにする方法は、複数あるからだ。たとえ話の世界に戻って考えてみよう。

遊園地の入園条件を変える【既存法改正ルート(法律改正)】
戸籍法を変えて(法律改正)、男女ペア以外でも結婚できるようにする。

誰でも入れる遊園地を新しく建てて、同じような遊具を置く【新法制定ルート(法律改正)】
結婚制度とは別の制度(例:パックス)を法律改正で作り、同性ペアも結婚と同様の利益を受けられるようにする

基本ルールを変えて、遊園地を根本から建て直す/壊す【改憲ルート(憲法改正)】
憲法を変えて、「結婚」という概念を同性も含むものとして構築し直す/「結婚」という概念自体をなくす

※どのルートにおいても、同性ペアが受けられる利益の程度、つまり、フリーパスをあげる(男女ペアと同性ペアの受ける利益を全く同じにする)か、一部の乗り物に乗れるようにする(配偶者控除等の主要な法的利益について同じにする)かについては、国会の判断次第となる。

ちょっと考えただけでも、この3つのルートがあって、憲法改正はそのひとつにすぎない。他と比べたメリットも、(今の憲法24条は基本的に異性婚を想定しているので)憲法を変えることで法的な「守られ感」がアップする、ぐらいのことである。そして、憲法改正は、前の記事で述べた法律改正の何十倍も大変である。

想像してみてほしい。あなたがもし、長い間ずっと不利益に苦しんでいたら、「守られ感」があがる、という抽象的な理由だけで、超超超超超大変な選択肢を選ぶだろうか?そんな暇があったら、その不利益を一刻も早くなくせる選択肢を選ぶのではないか

だから、多くの当事者は、「憲法改正は別にしなくてもいい(から法律改正早くしてくれ)」と思っているのだ(憲法改正が必要!!と声高に叫んでいる人は、その身もだえするような焦燥感がわかっていない)。憲法改正は「不要」なだけでなく、「不要不急」なのである。

4.おわりに

おとぎ話の終わりはいつもハッピーエンドだ。このたとえ話も例外ではない。

この空白を何が埋めるかは、私たちのこれからの行動次第で決まる。
貴方は、どんな結末にしたいですか?

コメント / COMMENT

  1. より:

    一度国民の総意によって改憲した場合であれば、再びそれが覆されてしまう可能性はとても低いし、強制力もあると思う。
    ですので、憲法改正は不要ではないと思う。
    必須だけど、即座にできることではないから

    ①新法制定(ある意味では応急処置)→②憲法改正(国民の合意をしたうえで、方針を決めて、土台を固める)→③既存法改正(※もし必要なら)という手順が一番現実的なのかなと思う。

    既存法改正は現憲法との整合性などの問題もありそうですし、逆方向への揺れ戻しがあるのも当事者の不安を生むかもしれない。

    • Candice / Chihiro より:

      コメントありがとうございます!気づくのが遅れて承認が遅くなってしまってすみません。たしかに、アメリカなどでの動きをみていると、法律が揺れ戻しで取り消されるなんて事態も夢ではないですよね。とはいえ日本の憲法はスーパー変えにくい構造なので、仰る通り、改憲するとしても、法制定できちんと基盤ができたうえでのことだと思います。

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