消えた英雄 シルヴィア・リベラ

レシピ / RECIPE

(本レシピのポイント(作成者:ちろちろ)

✔ 6月がプライド月間とされているのは、LGBT+権利運動の端緒とされる「ストーンウォールの反乱」が6月に起きたから

✔ 中心的人物のマーシャ・P・ジョンソンが偉人として知られているのに対し、その友人のシルヴィア・リベラはあまり語られない

✔ その理由は平和的なマーシャと攻撃的なシルヴィア、二人の性格の違いにあると分析

6月は「プライド月間(LGBT+の啓発月間)」とされており(ジューン・プライド、なんちて)、レインボーフラッグ(LGBT+の象徴)が飾られたり、プライドパレードが行われたり、街が虹色に輝く

これは、LGBT+の権利運動の発端とされる「ストーンウォールの反乱」が起こったのが、1969年の6月だったことに由来する。同性愛が犯罪とされていた時代、ゲイバー「ストーンウォール・イン」に押し入った警察に客たちが反撃、暴動に発展したという事件だ(※以下の記事の解説がとてもわかりやすいので、あわせてご覧ください)。

この反乱には多くのトランスジェンダー(生まれたときの身体的性別と、自分で認識する性別が異なる人)の人たちが関わっていたのだが、その中のひとり、アフリカ系アメリカ人のマーシャ・P・ジョンソンは、特に有名である。ドキュメンタリーや映画が作られたり、公園の名前になったり…弾けるような笑顔が印象的な彼女の名は、その謎めいた死(限りなく他殺の可能性が高い「自殺」)とともに、英雄として、歴史に永遠に刻まれていくだろう。
〇トランスジェンダーの権利向上のために闘ったこと、
〇当時のLGBT+の活動がトランスジェンダーやドラアグクイーンを「見た目が悪いから」と排除しようとしたことに抵抗したこと、
〇LGBT+やセックスワーカー等社会的に弱い立場の若者たちのシェルターを作ったこと
などの数々の功績を考えれば、当然である。

マーシャ・P・ジョンソン (Photograph: Netflix)

…のだが。ストーンウォール関係の記事やまとめを読むたびにいつもひっかかるのは、そんなマーシャの友人で、一緒に活動し、同様の功績をあげた「シルヴィア・リベラ」という人について、あまりスポットライトがあたっていないように見えることだ。LGBT+の活動から排斥されたあと、ホームレスとしての生活を送るなど、その生涯はマーシャに負けず劣らずドラマティックで、情熱に満ちたものであったにもかかわらず、である(日本語版ウィキペディアの記事も、マーシャのものは存在する(下記)が、シルヴィアは存在しない)。

シルヴィア・リベラ(Credit: Leonard Fink, courtesy LGBT Community Center National History Archive.)

なぜなのか?二人の性格にヒントがあると私は思う。マーシャはいつも笑顔で、明るく、人当たりのいい人だった。対して、シルヴィアは激高しやすく、人好きのしない性格だった。そして、時代は1969年、ベトナム反戦運動のまっただなかだった。時代はマーシャのような、「平和的」な活動家を求めていただから、「攻撃的」なシルヴィアは、日陰に追いやられたのだと思う。

だが、時に、思いを伝えるためには、「攻撃的」にならなければならない。Black Live Mattersの活動に対して、どこかの芸能人が「あんなに怒らなきゃいいのに。落ち着いて話し合うべき」というようなことを言っていたが、笑うのをやめて、本気で怒らなければならないときがある。特に、日本社会では、とりあえず笑って済ませることが多いと思うが、本気で怒らなければ、状況は変わらない。たとえ、それがいばらの道だとしても。

LGBT+の活動から排斥され、ブーイングを受けて立ち去るシルヴィアの背中を見る度に、晩年、穏やかだが、どこか空虚な表情になったシルヴィアを見る度に、そう思う(※)。

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※これらのシルヴィアの姿は、どちらも、(皮肉な話だが)ネットフリックスの「マーシャ・P・ジョンソンの生と死」(下記)で鑑賞できる。

※マーシャが怒らなかったと言いたいわけではない(上記のドキュメンタリーで、マーシャを知る人たちが、「彼女は朗らかな人だったが決して怒らなかったわけではない」と言及している)。本記事では、マーシャを扱う記事やまとめが、常に笑顔の「平和主義者」として彼女を描くことの危険性を述べた。

コメント / COMMENT

  1. […] (消えた英雄:シルヴィア・リベラ/Lost Hero: Sylvia Rivera)トランスジェンダーの人の権利のために闘った「消えた英雄」シルヴィアに迫る記事。Why Sylvia Rivera is not paid the same attention as Marsha. P. Johnson? […]

  2. […] なぜ6月は「プライド月間」と呼ばれるのか?──LGBTQ+を読みとく vol.16月はアメリカをはじめ、世界各地で「プライド月間(Pride Month)」とされ、LGBTQ+の権利について啓発を促すさまざまなイベントが開催される。これを機に、性の多様性をめぐるさまざまな問題について、『LGBTを読みとく』の著者、森山至貴さんと考える。第1回目はストーンウォールの反乱と「プライド月間」の発祥につい…www.gqjapan.jp 消えた英雄 シルヴィア・リベラ時に、人には、本気で怒らなければならな… […]

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