性をめぐる議論はなぜこじれやすいのか

性をめぐる議論はこじれやすい。たとえば、ツイッターなどでよく見かける構図として、

このCMは女性モデルの胸の大きさを強調しすぎだ！！

私は胸が大きい人が好きなのに、そんなこと言わないでよ！

胸が大きい人はCMに出るなってことか？

なんていう議論の応酬が続き、結局、両者喧嘩別れに終わる…ということがある。

こうした不毛な掛け合いが頻繁に起きてしまう主な原因は、性に関する３つの捉え方、
①ジェンダー（社会的な性差）
②セクシャリティ（性的指向、性自認）
③バイオロジカルセックス（生物学的な性差）
が区別されていなかったり、ごっちゃになっていたりすることにある。

この３つ、そんなに違わないんじゃないかって？めちゃくちゃ違うのだ。
①ジェンダー：性について「社会が」どう考えているか
②セクシャリティ：性について「私が」（他の人との関係で）どう考えているか
③バイオロジカルセックス：性について「科学が」どう考えているか
と、それぞれ視点が全く異なるのである。

「パクチー」を説明するとき、
①：日本では、昨今のエスニック料理ブームで流行り始めたが、嫌いな人も多い。
②：魚介類や野菜と食べるのを好む人が多いが、私は豚肉と食べるのが好き。
③：ビタミンCを豊富に含む一年草。夏に花を咲かせ、秋に果実を実らせる。
以上の３通りの説明で、全然違うことを話しているのと同じである。

以上を踏まえて、さきほどの議論を見なおすと、

このCMは女性モデルの胸の大きさを強調しすぎだ！！（≒「社会が」胸の大きい人を性的に（過度に）消費することが問題だ）

私は胸が大きい人が好きなのに、そんなこと言わないでよ！（≒「私が」胸の大きい人が好きだ）

胸が大きい人はCMに出るなってことか？（≒「科学（生物学）的に」胸が大きい人が存在する）

と、全く違う視点で議論していることがわかる。そりゃ、喧嘩別れに終わるわけである（「パクチーってあの香りが嫌いな人多いよね。なんとかできないかな」と聞かれて、「いやいや私は好きだよ！！」とか「あの香りの成分はカプリンアルデヒド」とか答えるとんちんかんさを想像してもらいたい。）

というわけで、性をめぐる議論に参加するときは、①～③の違いを意識してみてほしい。もちろん、単純に類型分けできる議論ばかりではないが、少なくとも、喧嘩別れになる確率はぐんと低くなるはずだ。