LGBT理解増進法案、成立へ

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✓ 一昨年の国会で審議されそうでされず、このまま棚上げかと思われたが、秘書官の差別発言をきっかけに議論がまた始まり、本国会で大揉めに揉めた末成立見込みとなったLGBT理解増進法案について、当事者として率直な期待と不安を語ります。

2023年6月9日、LGBT理解増進法案が、衆議院内閣委員会で可決された。この後衆議院本会議で採決された後、参議院内閣委員会で審議されるが、日本の法制度上、衆議院を通った法案が参議院で否決されることはほぼない(否決されたとしても、衆議院で2/3以上の多数決のもと再議決すれば法案を通すことができる)。
※2023年6月14日追記 早ければ今週中(6/16)にも参議院本会議で採決見込みとのこと。

LGBT+について真正面から扱う、日本史上初の法律の成立は、確実とみていいだろう

しかし、当事者をはじめとして、LGBT+の権利向上を訴えてきた人たちが歓喜に沸いているかというと、そうでもない。むしろ、不安と疑念を抱いている人がほとんどだと思う。

そもそも、この法案は、2015年にその萌芽が生まれて以降、大変波乱万丈な道のりを辿ってきた(詳細については下記記事参照)。特に、2021年の国会にて、
・いったん審議されるかも!?という雰囲気になったが、
・自民党内で揉めに揉め、差別発言も飛び出して、
・結局、審議されそうでされなかった
という非常に後味の悪い結末を迎えたことは記憶に新しい。

その後長らくこの法案は棚上げにされており、今国会でも成立の目はないと思われた矢先に起こったのが、今年の2月に起こった荒井首相秘書官(当時)によるLGBTへの差別発言だ。

この発言は、余りにも直球な差別発言だったこともあり大きく報道され、荒井秘書官の辞任という結果となり、岸田総理も大きな批判を浴びた。5月にG7サミットの開催が決まっていたため、日本がG7で唯一同性婚を認めていない国であることも盛んに報道された。

こうした事態を収拾する一手として、急遽、「今国会でLGBT理解増進法案を成立させよう」という話が飛びだし、議論が開始されたのだったが…。そこで繰り広げられたのは、2021年を彷彿とさせるような、いや、その時より更に加熱した、「日本の伝統的価値観と合わないか否か」論争であった。

もちろん議論は大事なのだが、理解増進を謳う法案とは思えない無理解に基づく発言が飛び出したり、誘発されてデマ情報が飛び交ったり、当事者への憎悪と偏見を煽るものが相当数含まれていたのも事実で、当然、TwitterなどのSNSはバックラッシュの嵐となった(Yahooニュースのコメント欄も地獄絵図であった…まあ、いつものことだが)。私もレインボーわらび餅の写真を投稿しただけで「虹、虹とうるさい!LGBT活動家め!!」と批判されるなど散々な目にあった。

中でも酷かったデマとして「法案が成立すると、“心が女だ”と主張すれば女湯に入れるようになる」というものがある(下記1番目の記事で立石弁護士が断言しているとおり、そんなことは全くない)。これに触発されてのトランスジェンダーの方々、特に、トランスジェンダー女性の方へのヘイトコメントは凄まじく、実際に殺害予告を受けたケース(下記2番目の記事参照)も出ている。

そんな混乱の中で、肝心の法案内容もどんどん修正が重ねられていき、「多数派が迷惑こうむらないよう、余計なことはさせないかんね!!」というニュアンス(もとい本音)が出すぎて、もともと薄かった内容がさらにペラッペラになってしまった。松岡一般社団法人fair代表理事が指摘している通り、「もはやLGBT理解抑制法」の様相である。

上記記事で松岡さんが作成してくださっている修正内容一覧(下図)をご覧いただければ、冒頭、私が当事者の反応がほぼ「不安と疑念」だと申し上げた理由がよくわかると思う。

ただ、私は、それでも、楽観論にすぎるかもしれないが、この法案が「成立する」ということそのものに、大きな意味があると信じている。確かに、嚙みすぎて味の薄くなったガムよりなお味がしない法案だと思うし、多数派に配慮するという姿勢が前面に出すぎて害にしかならないという指摘も最もだ。

けれど、考えてみてほしい。この国には、これまで一切LGBT+について述べたり、LGBT+に関する施策の根拠となる法律がなかった(「性同一性障害特例法」があるではないか、とおっしゃる人がいるかもしれないが、あれは名前の通り「性同一性障害」という「障害」に関する「特例」を定めたもので、性的少数者に関する理解増進や差別防止を目的とするものではない)。

蟻の一穴、という言葉があるように、たとえそこに一筋の光しか見えなくても、「ない」のと「ある」のでは全く違う。数十年前、男女雇用機会均等法が成立したとき、同様に「こんな法案は無意味だ」「百害あって一利なしだ」という議論が巻き起こったが、あの法律は間違いなく、現在にかけて少しずつ、男女平等という理念が形にされつつある、その礎となった。

数十年後、「この法律が始まりだった」と晴れやかに語ることができる、そんな未来の実現に向けて、大きく前進したことは間違いないと、私は信じている。

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